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大阪地方裁判所 平成11年(行ウ)40号 判決 1999年8月24日

原告

魚森昌彦

被告

大阪国税局長 高木祥吉

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  原告は、「<1> 被告は、原告の相続税の計算の見直しを行い、原告の減額(六〇三五万円)要求を認める。<2> 原告が都市銀行から低利率での借入れの機会を逸したことに対する損害賠償請求(一三二〇万円)を認める。<3> 被告は、原告に対し、相続税の遅延損害金(六四五万円)の請求を行わない。」との裁判(以下、番号にしたがって「<1>請求」、「<2>請求」などという。)を求め、別紙の内容の訴状と書証として甲一、二を提出した。

これらによると、原告は、魚森英一(平成三年一月二二日死亡)の共同相続人の一人であり、右の相続に係る相続税の申告書を平成三年七月二二日に、修正申告書及び相続税延納申請書を同年一〇月二三日に提出し、同年一二月四日付けで延納許可を受けた者であるところ、原告は、納付すべき原告の相続税額が確定した後、英一の遺産である土地の路線価が下落し続けたので、右税額も減額されるべきであり、平成九年度の右土地の路線価に基づいて算定した原告に対する相続税額に相当する金員を原告は既に納付済みであるから、原告は、延滞税(原告が遅延損害金と表現するのはこの趣旨であると解される。)を納付する義務も負わない、また、相続税の納付のために都市銀行から低利率で借入れを行う予定であったのに、国税当局が抵当権の順位を変更しなかったためこれが不可能となって原告は損害を被った。等と主張しているものと解される。

なお、原告が本訴状で引用する裁決書(甲二)によると、原告は、本件訴訟に先立ち、相続財産の評価額の格差是正、相続税の延納分の納税額に係る納税催告、銀行借入れの機会喪失による損害賠償請求について審査請求を申し立て、却下裁決がされているようである。

二  そこで、検討するに、<1>請求については、その趣旨及び法的根拠は不明確である。

ただし、これを納付すべき相続税額を減額する旨の処分を求める義務付け訴訟と解する余地もないではない。そうだとすると、課税庁(原告の現在の住所を所轄する税務署長)を被告とすべきことになり、義務付け訴訟については、行政事件訴訟法一五条による被告の変更はできない(同法三八条一項)から、本件訴訟手続内でその不備を補正することはできない。

また、納付すべき相続税額の減額を求めるには、更正の請求の手続が法定されており(国税通則法二三条、相続税法三二条)、右手続によらないで右税額の減額を求めることは原則としてできないというべきである(更正の請求の原則的排他性)。更に、原告が本訴状で主張する事由は、納付すべき税額の確定後に遺産である土地の評価の基準となる路線価が下落したというものであって、そもそも、かような事由は相続開始時に確定した相続税額を減額する事由には該当しない。勿論、課税庁は原告の主張するような処分を行うことを一義的に義務付けられているとも到底いえない。

そうすると、いずれにしても、<1>請求は、これを適法な訴えに補正する余地もないもので、不適法というほかない。

三  次に、<2>請求については、金員の支払を求める民事訴訟(国家賠償請求訴訟)と解するほかなく、そうすると、被告とされるべき者は国であり、これは被告適格を欠く者に対して提起された不適法なもので、それを補正することも不可能である。

そうすると、<2>請求も不適法と解するほかない。

四1  <3>請求についても、不明確であるが、一応、(1) 延滞税賦課決定処分の取消し又は無効確認訴訟、(2) 延滞税納付義務の不存在確認を求める当事者訴訟と解する余地がないではない。

2  しかし、延滞税は、納税義務の成立と同時に、以後は時の経過にしたがって特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされており(国税通則法一五条三項七号)、したがって、延滞税の賦課決定なるものはあり得ない。

3  また、延滞税納付義務の不存在確認を求める当事者訴訟となると、被告とされるべき者は国であり、出訴期間の定めはないから、行政事件訴訟法一五条による被告の変更もできず(同法四〇条二項)、被告適格を欠く者に対して提起された訴訟ということになる。

そうすると、いずれにしても、<3>請求は、不適法なもので、補正することは不可能であるというほかない。

五  以上によれば、原告の本件訴えは、いずれも不適法であって、その不備を補正できないから、口頭弁論を経ずにこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 青木亮 裁判官 谷口哲也)

訴状

大阪地方裁判所 御中

平成十一年五月二十五日

事件名 相続税の計算の見直しによる減額請求ならびに損害賠償請求事件

当事者、請求の趣旨、請求の原因、その他は別紙の通り

訴訟物の価額金 八、〇〇〇万円

印紙額 三三万七、六〇〇円 予納郵券 四、八〇〇円

添付書類 甲第一号証写し

甲第二号証写し

当事者の表示

原告 〒一〇八-〇〇七一

東京都港区白金台二-四-二一

魚森昌彦

電話並びにFAX 〇三-三四四三-七八三三

被告 〒五四〇-八五四一

大阪府大阪市中央区大手前一-五-六三

大阪合同庁舎第三号館

大阪国税局長 高木祥吉

電話 〇六-六九四一-五三三一

請求の趣旨

一、被告は、原告の相続税の計算の見直しを行ない原告の減額(六、〇三五万円)要求を認める。

二、原告が都市銀行から低利率での借入れの機会を逸したことに対する損害賠償請求(一、三二〇万円)を認める。

三、被告は原告に対し、相続税の遅延損害金(六四五万円)の請求を行なわない。

四、訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求める。

請求の原因

一、平成三年七月二十二日に原告が申告した相続税の計算は当時(平成三年度)の路線価に基づくものであり、その額は八、八七二万八、六〇〇円である。しかし、路線価は平成三年度をピークに下落を続け、例えば、平成九年度の路線価ならびに税率に基づき原告が計算を行なったところ、その相続税は二、七三一万五、〇〇〇円であった。原告は、平成三年に二、一三一万六、六〇〇円、平成六年に七〇六万一、六〇〇円を納入しており、既に完納していることになる。(甲第一号証)

二、原告は、過去数回に及ぶ相続税の減額を求めたが拒否された。地価の下落に伴ない土地を売るに売れない状況が続き、都市銀行からの借入金による納付を試みたが、抵当権順位変更の申し入れを被告が拒否したため、借入れはできず納付ができなくなった。同時に都市銀行から低利率での借入れの機会を逸した。

三、その後、原告は被告の管轄の西税務署(以下西税務署という)より遅延損害金の支払い請求を受けた。又、納入催告書ならびに口頭での競売を実行する旨の連絡を受けた。

四、大阪国税不服審判所に審査請求を提出したが、所長より却下の裁決を受けたため、本訴に及んだものである。(甲第二号証)

五、そこで原告は被告に対し

(1) 原告の相続税の計算の見直しを行ない、六、〇三五万円の減額を行なうこと。

(2) 都市銀行から低利率での借入れの機会喪失に対する損害賠償(利子軽減分一、三二〇万円)請求に応じること。

(3) 原告に対する遅延損害金、六四五万円の請求の棄却。

を求める。

関連事実

一、原告は、被相続人の遺言書ならびに相続人の合意書に基づき、相続税を全て負担することになっている。

二、平成三年七月二十二日に申告した相続税を次の条件で比較すると

(1) 平成九年の税率に基づいて計算すると五、九五六万円

(2) 平成九年の路線価に基づいて計算すると四、三一四万円

(3) 平成九年の税率と路線価に基づいて計算すると二、七三一万五、〇〇〇円でそれぞれ約二、九一六万円、四、五五八万円、六、一四一万円の開きが認められる。

三、そこで原告は、再三、再四、西税務署に対して相続税の減額の請求を行なったが、被告は既納者との不公平を理由に原告の請求を拒否した。バブル経済時の評価を受けた原告と昨今の評価を受けた人との不公平は一体どうなるのか。逆に被告は、バブル経済崩壊後の路線価の極端な下落を認め、原告に対し担保価値の低下による更なる担保の差し出し要求を行なった。

四、やむなく原告は、大和銀行からの借入金により相続税の一部を納付すべく西税務署に申し入れたが、抵当権順位の不利を理由に拒否された。当時、大和銀行との話し合いでは納税のための借入れならびに三井信託銀行からの高利率での借入金の代替の承諾を得ていた。現在の銀行の状況ではもはや借入れは不可能である。原告は、都市銀行から低利率での借入の機会を逸すると同時に相続税納入の機会も逸した。その後、西税務署より催告書などによる担保物件の競売を実行する旨の連絡を受けた。土地の価格下落により、売るに売れず、又都市銀行からの借入れの機会も逸し、八方塞がりの状況と相なってしまった。

五、原告は、西税務署より、交渉期間中の遅延損害金(震災による一年間の猶予を除いた額)の請求を受けた。このままでは、交渉は進展せず遅延損害金は増加する一方である。

交渉の経過

一、原告は、西税務署に対して、路線価の下落ならびに税率の改定による相続税の減額要求を再三再四行なったが、西税務署は既納者との不公平を理由に原告の要求を拒否した。

二、平成九年三月、原告は大和銀行からの低利率での借入れによる相続税の一部返済を試みたが、被告は抵当権順位の変更を認めず交渉は決裂した。

三、平成九年五月、原告は被告からその交渉中に西税務署を通して更なる担保の差し出し要求を受けた。

四、しかも、その交渉中に西税務署から裁判もやむなしとの回答を得た。

五、原告は、平成十年七月に、大阪地方裁判所に訴状の提出を試みたが、西税務所長への異議申し立て、ならびに大阪国税不服審判所長への審査請求を行なうよう、当該裁判所の事件係より指示があったので従った。本年三月二日に大阪国税不服審判所長より却下の裁決書が送付されてきたので、本訴に及んだものである。

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